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4.不動産投資シミュレーション
更新日:2020年8月6日
不動産投資の検討をしたいという人にために、不動産投資のシミュレーション方法を例示し、解説しておきます。最終的には、複数年のシミュレーションが必要ですが、ここでは、不動産の取得時及び1年間の収支について、簡単なケースに基づき概説します。
次に示すような不動産について投資を検討することとします。

土地建物概要については、検討対象となる不動産の固定資産税の納税通知書あるいは公課証明等を入手しなければ正確な数字は把握できません。初期の段階では、土地については、路線価÷80%×70%を単価として概算することが可能です。但し、税制上の特例等が適用になっている場合があること等もあり、最終的には必ず正確な評価額を確認することが必要です。建物の再調達価格は、保険料や長期修繕費の算定に利用しますが、保険料については、他の費用に比較すると大きな金額ではありませんので、初期の段階では仮置きの数字で構わないと思います。建物の残耐用年数は、減価償却費の計算で必要になりますが、これは、税法上の法定耐用年数に基づき算出します。中古物件の場合には、(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2となります。端数は切り捨てとなります。
レントロール(テナント毎の賃貸借契約内容を整理したもの)等については、簡略化のためにまとめた数字だけのものとしています。さて、シミュレーションをする際に重要な部分は、テナントの入替え率をどのように想定するかになります。この部分については、売主は、細かい開示をしません。パフォーマンスがよい場合には積極的に開示するかもしれませんが、パフォーマンスが悪ければ、解約件数やリーシング等の費用を開示すれば、査定価格が下がることになりますので、当然と言えば当然ですね。この部分については、実際の稼働率等もあまり開示されていませんが、リートの所有物件については一定程度の情報開示がされているので、参考にすることができるかもしれません。但し、不動産は個別性が強く、少しの立地の違いが大きなパフォーマンスの違いにつながる可能性もあるので、要注意です。
ここでは、次表のような想定をしてみました。ここの設定数字は、様々な数字で最終的に試算することができるように設定しておくことが重要です。

さて、上記のような物件があった場合に、まずは、キャッシュフローの整理を行います。次表が単年度の収支を整理したものです。

現金の入出金だけに注目して、運営収入(Operating Income)と運営支出(Operating Expense)を整理します。この引き算が、ネットオペレーティングインカム(Net Operating Income、略してNOI)と呼ばれる数字になります。言葉通り、運営(Operating)に関わる収入(Income)と支出(Expense)をネットした数字になります。実は、消費税の扱いが面倒ですので、必ず、消費税込みを消費税抜きの数字を整理しておくことをお薦めします。更に、NOIからCAPEX(資本的支出)を控除した金額がネットキャッシュフロー(Net Cash Flow、略してNCF)と呼ばれます。このCAPEXは、本来であれば、技術者に建物の診断を行ってもらい、今後の長期修繕計画を策定してもらったうえで、例えば10年間といった長期間に係る修繕費用の1年間の単純平均を出して求めます。主として、設備(エレベータや給排水設備等)の更新や交換費用が大きな金額となりますが、これまでのメンテナンス状況等から想定していく必要があります。
このNOI、NCFに対して、何%の利回りを要求するかによって価格が算出されます。この利回りをキャップレート(Cap rate)と言います。本来、建物は未来永劫存在するわけではないので、一定の期間経過後は解体して土地を売却するといったシナリオを立て複数年の内部収益率(Internal Rate of Return、略してIRR)の計算等を行う必要がありますが、簡易には、単純に単年度のCAP rateで価格査定を行います。次表がキャップレートと価格のシミュレーションを行ったものです。

このCAP rateは、何%が適切かということを求めるのは極めて難しいのですが、この10年近く下がり続けており、不動産の価格は上がり続けてきています。ここでは、この議論は割愛します。
ここに示した計算例は非常にシンプルなものですが、それぞれの想定数字の確からしさをサポートする事実や確証を収集しながら、価格査定を進めることになります。但し、あまりに長い時間をかけて検討していると、他のライバルが先に手を挙げて、交渉のテーブルに乗ることになるのは言わずもがなです。
さて、様々な検討の結果、取得価格を決定すると、実際に、その価格で、どの程度の初期費用が発生し、借入もふくめて、どのように資金調達すべきかを検討する必要があります。次表は、1.8億円と仮定した場合の初期投資費用です。下表に記載の費用のうち、取得税の支払いは、取得時ではなく、取得後半年程度経った頃に納付書が送られています。不動産価格が1.8億円でも約5.7%追加で別途費用が発生し、全部で約1.9億円の費用が必要となります。

また、これらの取得時の費用の中で、簿価として計上する金額は次表の通りとし、減価償却も算出します。

次表は、この必要資金(税込)を借入と自己資金でまかなう場合の設定を行っています。LTV(Loan to Value Ratio)は78%程度と高めの設定です。他方、DSCR(Debt Service Coverage Ratio)は、1.3を確保できている水準です。

このような借入を行った場合に、果たして、1年目のキャッシュフロー、損益計算、貸借対照表がどのようになるのかを次に示します。
キャッシュフローは、NOIから単純に借入の元利金返済(Debt Service)を引き算すれば求められます。但し、初年度は取得税の支払いがあるため、この金額もキャッシュフローに入れております。(資金的には調達済みなので、初年度のキャッシュフローがマイナスになっても問題ありません。)

これを損益に落とし込むと次のようになります。

基本的には、NOIから、減価償却費と金利を引き算すれば、損益になりますが、ここで、消費税を考える必要が出てきます。
本来、消費税はもらった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を引いたネットの金額を納付することが基本です。但し、この例では、住宅の賃料収入が概ね全体の80%となっており、オフィス賃料収入の課税売上は約20%となっています。このため、仮受消費税は232千円となっています。これに対して、支出となる仮払消費税は103千円ですが、単純にこの引き算となる129千円を消費税として納めればよいということにはなりません。仮払消費税の103千円は売上全体に対応するものですが、課税売上比率が20%しないので、仮払消費税103千円の20%となる21千円だけが控除対象になるという考え方になります。したがって232千円-21千円=211千円が納付すべき消費税となります。控除されなかった82千円の仮払消費税は、控除対象外消費税等として損金処理することになります。
ここでは、課税売上が20%程度ありますが、もし、すべてが住宅賃料売上だけであれば、経費として支払った消費税は払いっぱなしの経費にしかならないということに留意が必要です。消費税がなかった時代(随分昔ですが)に比べれば、単純に経費が10%増加しているというのが住宅投資事業になっています。消費税の増加分を賃料に転嫁して、本来、賃料アップを図るべきかもしれせんが、マーケットの需給バランスを見ると、賃料アップをできているケースは少ないように感じます。
横道にそれましたが、元の話も戻ります。このシミュレーションでは、物件の取得を1年間の期首に行い、その後1年間の賃貸事業を含めて1年間の事業期間と仮定しています。このため、物件取得時の経費処理分も初年度の損金処理とし、また、建物消費税等の取得時の消費税についても、課税売上割合80%を乗じた金額7,451千円を控除対象外消費税等として損金処理としています。この結果、取得関連経費が12,078千円の損が追加され、初年度の最終的な損益は、▲8,988千円となります。
これらのキャッシュフローと損益計算書を貸借対照表に落とし込むと次表になります。期首の取得時の状態と期末の1年間の賃貸事業実施後の数字を示しています。

借方である資産の合計金額と貸方の負債及び資本の合計金額が合致することが必要です。この数字は、初年度ですので、特殊な数字になっていますが、最終的には、借入金を完済した後までシミュレーションを行い、現預金の積み上がりの度合いや、自己資金に対する利回り等をシミュレーションすると同時に、設定した変数を変更してリスク許容度も検討していくことが重要です。尚、この例では、損益がマイナスなので法人税計算(個人で行う場合には、個人事業の所得税等)を行っていませんが、当然に法人税や個人の所得税等の支払いを行った税後の計算を行う必要があります。この際、それぞれの事業主体が他にどのような事業を行なっているかによっても税金の計算は変わってくるので、細かい計算までは不要かもしれませんが、全体の税金のマネジメントも考慮に入れておくべきであると考えます。