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1.不動産投資に期待される利回り
更新日:2020年8月6日
近年は、ネットでも新聞記事でも、投資用不動産の紹介が数多く見られるようになりました。この物件を紹介する説明の中に、利回り〇%という記載があります。この利回りは、本来、何%あるべきなのでしょうか?結論から申し上げますと、需給関係で決まるとしか言いようがないのですが、本来、この利回りが意味するところについては、一定程度の理解を持っていた方がよいと思います。ここでは投資用不動産に期待される利回りについて、概説します。
そもそも、一般の人々向けに公開される物件紹介に期待される利回りは、”表面利回り”と呼ばれるものがほとんどで、”年間賃料収入÷物件価格”で計算される数字となっています。また、一般的に、この年間賃料収入は消費税を含んでおり、かつ、満室想定になっていることが多いということについても、ご留意ください。

上表は、仮に月額収入30万円の不動産があった場合に、本来の収入を簡単に示したものです。この30万円という月額収入が消費税込みの満室想定で合った場合、消費税抜き、かつ、5%の空室損失(空室により賃料が入ってこないという損失)を想定した場合の収入は約14%ダウンの約26万円になることがわかります。尚、当該不動産が住宅案件であれば、賃料収入に基本的に消費税は含まれませんので、想定した空室損失分だけの減額となります。(不動産価格には、建物の消費税が含まれているケースも多いので、初期投資及び毎年のキャッシュフローについて、消費税がどのようなインパクトを与えるか、十分検証が必要です。)

さて、東京都の都心の販売物件を見ると、3%、4%、5%という表面利回りが記載されている例がほとんどです。ここから、空室損失や消費税を考慮し、更に、不動産の所有・管理にかかる経費を引き算すると、一体、どの程度の利回りになるのでしょうか?不動産投資を検討する際には、表面利回りだけではなく、空室損失や消費税のインパクトを考慮し、更に、支出を差し引いたネットの収益で不動産の収益性を判断する必要があるのは当然のことです。
不動産の一般的な支出は、下記のようなものとなります。
・公租公課(固定資産税及び都市計画税)
・保険料、清掃費、水光熱費(共用部)
・維持管理費(消防点検等の設備や建物の点検や管理等の費用)
・修繕費(建物の経年劣化に伴う修繕費用)・
・PM費用(Property Management費用/テナント管理及び建物の管理費用)
また、これに加えて、テナントの入退去時には、
・仲介費用
・室内クリーニング費用
・室内修繕費
等も発生します。
更に、実際には毎年出ていくわけではありませんが、将来想定される設備等の大規模修繕や更新費用に関して、例えば10年間発生する費用合計を1年間の平均コストに置き換えたコストとして、
・資本的支出(通称、CAPEXと呼ばれます。Capital Expenditure の略です。)
も支出として計上します。
これらの支出は、収入や空室(テナント入替率)、固定資産税評価額等により異なりますが、収入の10%~30%程度にはなります。結局、現状、東京都心や人気のある立地の物件の利回りは、2~4%程度のネットの利回りしか生み出していないと想像されます。
これらの支出を引いた後のネットの収益と売買価格の比率が、キャップレートと言われる数字です。プロの投資家間の取引では、これらの数字には基本的に消費税は含みません。キャップレートとは、Capitalization Rateの省略で、Capitalizeとは、キャッシュフローを生む商品の価格を算出するというような意味です。
次図は、日本の上場J-REIT(不動産投資信託)が東京都で取得した住宅案件のキャップレートを時系列に示したものです。2008年秋のリーマンショック後、キャップレートは上昇しましたが、2011年から下降に転じ、物件取得価格は上昇してきています。2020年6月の時点でほぼ4.0%となっています。

これに対して、次図は、日本の上場J-REIT(不動産投資信託)が東京都で取得したオフィス案件のキャップレートの推移です。リーマンショックは、米国の住宅向けサブプライムローンに端を発したイベントであったため、日本においてもオフィスよりも住宅価格へのインパクトが大きかったように思いますが、大きな流れとしては、ほぼ同様のカーブを描いていると感じます。2020年6月の時点で約3.75%となっています。

住宅にしても、オフィスにしても、取得キャップレートは、この10年間で下がり続けてきたことが理解できます。銀座の商業施設が2.0%台のキャップレートで売買されたことは衝撃でした。
しかし、J-REITが取得する物件は、建物の精査(デューディリジェンス)を行い、基本的な瑕疵は治癒した状態での取引になるため、一般に取引よりも厳しい条件をクリアしており、規模も大型となります。また、投資家に対する説明責任の観点から、鑑定評価の取得が前提となり、鑑定価格から逸脱した価格では取得できず、一定の制限がかかっています。
これに対して、一般の個人投資家も含めたマーケットで取引される物件は、売買当事者さえ、取引条件を了解しリスクを許容すれば、いかなる取引条件でも実現可能です。このため、J-REITの取得キャップレートを下回る取引も行われていると思われます。J-REITが取得できない条件の悪い物件を、より低いキャップレートで取得するというのは、経済合理性の観点からは、理解しがたいことです。よく言われることですが、海外の個人投資家や相続対策の不動産投資需要が、一役買っているのではと考えられます。

銀行の預金金利が0.1%もない時代ですから、銀行預金に比べれば、低い利回りでも不動産投資の方がましであるという見方もできますが、不動産の値段は変動するということも認識しておくべきです。現在のような好況時は、そもそも賃料単価等も高い状況にあるため、賃料の下落リスクを内在しています。また、キャップレートはこの10年間右肩下がりで低下してきましたが、元に戻ることも十分にあり得ます。何かの理由で、不動産の賃借需要が減退し、賃料の下落リスクが顕在化した場合には、その賃料減額リスクを織り込んで期待利回りは上昇し、物件価格が下がる可能性が十分にあります。
リーマンショック後の数年間は、上記のキャップレートの推移に見るように、キャップレートが上昇し、不動産価格が下落するマーケットでした。また、現在のコロナウィルスの拡大も同様の状況を引き起こす可能性はあります。但し、現在は、行き過ぎた投資等を抑制するために金融機関が貸し出しを絞っている状態ではなく、逆に、資金繰りに困る企業を支援するために金融機関が潤沢な資金を供給しようというスタンスなので、どのような結果になるかは、よくわからない状況にあります。

また、将来、マーケットが悪化し、価格が下がると悲観的な考えに終始する必要はありません。景気は循環するため、仮に不動産マーケットが不況となり、価格が停滞したとしても、再度、マーケットが好況になるということも、十分に期待可能です。不動産は株式と異なり、細かい値動きで取引するような商品ではありません。しかし、大きな景気の波の中で、高低を繰り返すことを認識しておくことが必要です。

もちろん、そのような中でも、地方都市の人口減少の著しい都市等にある物件の中には、表面利回りが10%を超える物件もあります。貴方自身が、その場所をよく知っていて、中長期的に何らかの理由で間違いないと判断可能であれば、これらの高利回り物件への投資を検討することも可能でしょうが、高い利回りは、人気がないことの裏返しであり、誰も、その不動産を購入したくないという事実があることを認識しておくことが必要です。
本来、投資理論的には、リスクの低い投資商品ほど利回りは低くなり、リスクの高い商品ほど利回りが高くなるというのが基本です。不動産においても、例えば、人口3万人の地方都市への投資は、リスクが高い代わりに利回りが高いということを理解するのは容易です。しかし、逆に、東京都心への投資は、利回りは低いが、リスクは少ないと常に言い切れるでしょうか?人口も多く、経済の中心でもある東京都心での投資は、空室リスクも低く、賃料も大きく崩れることはないという点で安定していると言えます。しかし、設定賃料が高すぎて収益が本来の収益以上に高く、これに伴い不動産価格が高すぎるというような状況になると、内在する価格変動リスクはかなり大きいものになります。国債のように元本を国が保証するような商品ではないことを十分にわきまえ、リスク・リターンを十分に検証したうえで、投資を行うべきと考えます。