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9.遺産分割協議をしないまま放置した場合の問題点

更新日:2021年2月12日

親が他界した場合、相続税が明らかに課せられないことから、遺産分割協議書は作成せず、もちろん、自宅等の不動産の名義変更も行わず、そのまま、放置しているというケースは多いものと思います。市役所等に聞きに行った場合にも、登記人の名義変更は義務ではありませんと言われるので、益々、問題ないのだと自信を深めて、何もしないという方もいるよう

です。しかしながら、東北地方を中心とする東日本大震災の復興において、登記名義人が不明の土地が多く、対応が進まないということに端を発して、現在、相続登記の義務化が検討されています。そもそも、遺言書もなく遺産分割協議も行わない場合には、どんな問題が発生する可能性があるのでしょうか?


<想定状況>

地方都市のA市に、下記のような状況があったと仮定して、何が問題なのかを記載してみたいと思います。

  • 相続財産は、自宅(土地・建物)及び若干の現預金等。

  • 自宅は商店街の中にあり、立地も良い。建物は築60年近く、老朽化が激しく、価値はゼロである。

  • 母親は80歳で、自宅に死ぬまで住みたいといっている。ちなみに、母は長生きの家系で、母の姉も90歳を超える年まで長生きした。但し、母の姉妹には認知症を発症している方もおり、母親に関しても心配である。

  • 土地の境界は未確定で、当該地から隣地への越境もあるが、境界確認書や越境確認書は未締結。

  • 父は5年前に他界しているが、遺言もなく、遺産分割協議書も未作成で、不動産の名義も父親名義のままである。

  • 母親が他界した時に想定される相続人は、子供たちの3名。長女55歳(既婚/東京在住)、長男53歳(未婚/東京在住)、次男50歳(未婚/A市在住)。長男は、高校卒業後、実家を出たものの、定職についておらず、経済事情等は不明で、今でも、親に金銭の仕送りの要求をしている模様。

  • 現在は、次男がA市に戻り、母親と同居している。

<推定される課題等>

このような状況で、今後、起こりうる、あるいは検討しなければならない課題や認識しておくべき事態等を羅列してみたいと思います。

  • そもそも、父親が亡くなった後、母及び子供たちの間では、遺産分割協議は行っていないため、父親の相続開始時(死亡時点)において、相続人全員に法定相続分の割合で相続されたとみなされる。遺産分割協議が合意されれば、相続開始時(死亡時点)遡って有効(民法909条)となる。この遺産分割協議の合意期限は現行法ではないが、相続から3年以内に土地の登記を義務づける等の法改正案がこの2021年に2月に法制審議会に答申されたところである。

  • 境界未確定で、登記も変更されていない。売却処分するにも、価格が必要以上に下がる可能性がある。また、相続税の捻出ができずに物納を考える場合には、境界確定済みであることが必要なことから、納付期限である相続開始から10カ月以内に境界確定できなければ、物納は不可能となる。

  • 母親が施設に入居する等の理由でまとまった金額が必要となり、不動産を売却しようとしても、相続人全員の同意が必要なため、売却がスムーズにできない可能性がある。

  • 相続発生時には、子供たちは皆60歳を超えている可能性が高い。自宅は相続しても、建替えを、そこから実施するのは、体力的、経済的に難しくなる可能性がある。結局は、売却するという選択肢しか残らない可能性が高い。

  • 他人に委ねるのではなく、相続して当該不動産を活用していくのであれば、子供たちが現役世代のうちに、実質的に引渡す方法が望まれる。子供への売却や資産管理会社、家族信託の活用等が考えられる。

  • 母親が認知症を発症した場合には、自宅の処分を行う等の母親の意思決定には、後見人を設ける必要がある。また、現状では次男が面倒を見ることになるが、独身の次男だけで対応可能かはわからず、長女の対応が必要になる可能性もある。

  • 長男がお金に窮している状況にあれば、不動産の法定相続分(民法900条)について、抵当権設定や売却等を行うことが可能。他の相続人が、長男の勝手な行為だと言っても、長男の行為を阻止できるような登記がなされていなければ、長男が行った法定相続分内での取引の相手方に対して対抗することはできない。(2020年相続法改正)一般的には考えにくいが、悪意のある第三者がこのような形で所有権の一部を取得してくると、非常に厄介な事態になることが予想される。

  • 母親の立場で考えると、結婚していない長男と次男、特に長男は、将来、どうやって生きていくのかが心配されることになる。このため、結局、母親は、長男、次男、長女の順番に財産を多く残そうと考える可能性が高い。

  • 母親の面倒を見るのは次男になる可能性が高く、長男がより多く相続することに、次男が納得するとは考えにくい。そうでなくとも、長男に対しては、成人後も多くの仕送りをしてきており、長女も、長男が多く財産をもらうのには納得しがたいと推測される。結局、相続財産の分け方がスムーズにまとまるとは考えにくい。

  • 根本にあるのは、長男が、どうやってこれからの人生を生きていくかという問題である。長女も次男も長男の面倒を見ようと積極的には思うまいが、そうはいっても、兄弟であり、無視することもできないであろう。どこに落ちつくのか。

  • 長男にも次男にも子供がいないことから、2人が将来他界した場合には、この兄弟の相続人は長女、もしくは長女の子供たち(代襲相続)となる。(母親は先に他界しているという前提。)

理屈ではわかっても、では、このような状況をどのように打破し、将来、トラブルにならないように備えればよいかの答えは簡単ではなく、また、正しい一つの答えがある訳でもないと思います。また、これら以外にも、問題がでてくるかもしれません。結局は、問題を先送りせずに、今のうちから、また、できるところから、誠実にきちんと対応していくしかないと思われます。

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