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8.相続と遺産分割訴訟

更新日:2020年8月6日

おそらく、両親が健在である方々の多くは、実家が資産家でない限り、相続についてまじめに考えたことはないと思います。私自身もそうです。私自身が初めて、相続を意識し、相続税がかかるのかどうかをシミュレーションしたのは父が他界した時でした。結論から言うと、将来母が他界した場合でも、相続税はほとんどかからないという結果を得ました。私自身は兄弟3人の長男ですが、生前、父が言っていたのは、“自宅は売却して均等に3分割するか、もし、可能であれば、誰かが相続して、残りの2名に相応の金銭を渡すように“というものでした。私達兄弟は、それぞれに結婚し、子供もおり、持ち家もあるため、一般論的には、父の生前の言葉通りに、相続することができるのではと思っております。父も遺言書は遺しませんでしたが、母親もきっと遺言書は書かないでしょう。


私の場合は、

  1. 相続財産の推定評価額から考えると相続税がほとんど発生しない。

  2. 兄弟はそれぞれ経済的に自立しており、また、コミュニケーションが取れている。

ということから、将来の相続については、楽観視しておりますが、唯一、実家をどうするかについては、まじめに考えなくてはならないと感じています。単純に売却するのであれば、何の問題もないのですが、生前の父の気持ちは、“売却ではなく、可能であれば、誰かが相続してほしい”というものでした。私自身が、実家を相続すると想定した場合には、

  • 兄弟に渡す現金の確保が必要なこと。

  • 実家は築50年に近い年数を経過しているため、相続するのであれば、建替えを行うが、そのためには、自分自身が、まだ元気なうちに実施したい。

と考えます。後者に関しては、母が実家に住み続けたいという気持ちを持っているため、放置している状態です。そろそろ、具体的に話もしなくてはいけないなと思いつつ・・・。


さて、私自身のことはさておき、そもそも、上述の①や②に課題がある場合には、話はもっと大変になると思います。特に②がやっかいであろうと思われます。そもそも、①に関しては、相続税が高いと思うほどの財産を遺すことになる方は、親から相応の財産を相続、あるいは相応の成功を収めた方ですので、相続税対策や相続方法についても検討されていることが考えられます。

これに対して、相続税はほほゼロであろうという場合には、親は相続に無頓着になり、相続人となるご子息たちには仲良くしてね、ということだけで、

誰に何を相続させるかについても、責任を持たないということが起こりがちです。私の両親も、同じと言えるでしょう。父親が先に他界するケースが多いでしょうが、父親の財産を相続した母親は、自分が作り上げた財産ではないという意識もあるでしょうから、余計に、その財産の分け方には干渉したがらないと思われます。


一方、相続人である子供たちの方は、よく言われる話でしょうが、ごく普通の兄弟姉妹であったのに、

  • 親の介護を特定の一人が行った。

  • 若い時に海外留学費用や生活資金をだしてもらった兄弟がいる。

  • 嫁や旦那が、納得しない。

等々から、誰かが過分な相続財産を要求したり、均等分割に異議を申し立てることで、意見の食い違いが表面化し、論争が勃発します。子供たちのそれぞれの生活の事情は異なっており、兄弟姉妹といえでも、懐事情まで話している人は少ないでしょう。これが、相続をきっかけに頭をもたげるといってもいいのでしょう。皆が自立していたとしても、それぞれの懐事情等で意見が食い違うのですから自立できていない兄弟が存在する等、相続人間で経済事情が明らかに異なる状況がある場合には、言わずもがなでしょう。


この結果、遺産分割協議の訴訟は5000万円以下の相続財産のケースが約7割を占めるという結果につながっているものと推察されます。(ここでいう財産家価格は相続税上の評価額とは異なり、裁判所の査定によるものです。)

そもそも、相続が発生した時の相続人である子供たちの年齢は50歳を過ぎているケースが多いと思います。親にとってはいつまでも子供かもしれませんが、50歳も過ぎれば、それぞれ、いい大人で考え方もそれぞれになるのは当たり前といえるでしょう。次図は、遺産分割訴訟で調停及び認容(後述)にて終了したケースにおける相続財産の価格(平成30年の司法統計)です。また、これらのケースの80%以上は相続財産に不動産(土地・建物)を含んでいます。

仲良く遺産分割協議が整わない場合には、家庭裁判所の調停を申し立てることになります。原告、被告に分かれて双方の言い分を言い合うことになるため、結局、兄弟の間に必要以上のわだかまりや亀裂を遺してしまうことになるのは容易に想像がつきます。


平成30年の司法統計によると、概ね13,000件の遺産分割訴訟の約半分は調停、すなわち、調停委員を入れての話し合いで解決していますが、審判あるいは認容が約3割となっています。いずれも、調停でまとまらなかったケースになりますが、審判とは、家庭裁判所の裁判官から強制的に「このように分割しなさい」という結論を出してもらう手続きであり、認容とは、審判になった場合に「申し立てが適法で遺産相続をすべき」と判断したという意味となります。尚、平成30年の相続案件は136万件ですので、概ね1.0%が訴訟になっているという計算になります。

一般の方は、裁判所に出向くことはないと思いますが、この調停手続きは決して気持ちのよいものではありません。裁判所で調停委員を交えて交渉・協議を行うことを“期日”と言いますが、1~1.5カ月に1回程度の頻度になりますので、すぐに決着が着くわけではありません。



結果的に、半年から1.5年程度は、家庭裁判所に通い、兄弟姉妹間で争いを繰り広げることとなり、所謂、“争族”状態になってしまうことが予想されます。

裁判所の査定に基づく財産評価額に比べて、相続税を算出するための評価額は、一般的には低いと推定されるので、相続人の数にもよりますが、訴訟になる概ね70%のケースは、相続税はあまりかからない事案であることが予想されます。この限られた財産を巡って、兄弟が争うという事態は、可能な限り避けたいものです。

そのためには、まずは、遺言を被相続人になるであろう方に準備してもらうことが、第一の手段として考えられます。この遺言は、一方的に、被相続人が書けばよいものなのですが、死にゆくものが、後に残るものに指図することを良しとしないのか、あるいは、子供たちは仲良くやってくれるから大丈夫だと思い込んでいるのかわかりませんが、あまり、一般的になっていないように感じます。日本公証人連合会のHPによると平成30年(2018年)の遺言公正証書の作成件数は約110,471件、他方、家庭裁判所での自筆遺言書の検認件数は、17,487件(司法統計 家事事件第2表)となっております。作成した公正証書遺言のすべてが、その年に使われるものではないとは思いますが、概算ということでは、この2つの数字を足し算した約13万件が、遺言が準備されていたケースと考えられます。


遺言が作成される件数は増加してきており、全国で140万件近い相続の約9~10%程度に該当しますが、他方、相続財産が1億円を超えるケースが10万件程度(7~8%)あり、このような高額財産の相続事案においては遺言が準備されている確率が高いことを考えると、まだまだ、我々一般庶民にとっては、遺言の普及率は低いものと思われます。

今般の相続法改正で自筆遺言証書の財産目録が自筆ではなくともよくなり、また、法務局による保管制度もできたことから、遺言作成がもっと普及していくことが望まれます。米国の遺言普及率は50%程度だとか。

遺言があることにより、兄弟が争うことがなくなるのであれば、これに越したことはないと思う次第です。親が子供たちに対して行うべき最後の仕事なのかもしれません。

最後になりますが、相続税に関する居住用財産の特例や配偶者の特例は、相続開始を知った日から10カ月以内に申告・納税が必要なため、遺産分割の調停を開始すると、これらの特例を受けられなくなる可能性が出てくるので、要注意です。

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